1. レビー小体型認知症とは?その正体と特徴
レビー小体型認知症(Lewy body dementia: LBD)は、アルツハイマー型認知症、血管性認知症に次いで3番目に多い認知症です。脳の神経細胞に「レビー小体」という異常なたんぱく質が蓄積することで、神経細胞が壊れ、さまざまな症状が現れます。
アルツハイマー型認知症との違いは?
アルツハイマー型が「物忘れ」から始まることが多いのに対し、レビー小体型はもっと多彩で、ユニークな症状が特徴です。症状レビー小体型認知症アルツハイマー型認知症中核症状認知機能の変動、幻視、パーキンソン症状記憶障害(物忘れ)、見当識障害周辺症状幻視、妄想、うつ、レム睡眠行動障害、自律神経症状など徘徊、興奮、暴力、不潔行為、妄想など
このように、レビー小体型はパーキンソン病の症状や、鮮明な幻視、睡眠中の異常行動など、他の認知症ではあまり見られない症状を併せ持つことが大きな特徴です。
2. 介護職員が知っておくべき3つのキーポイント
レビー小体型認知症を理解する上で、特に重要な3つの特徴を深掘りしていきましょう。
① 認知機能の変動:調子がいい日と悪い日がある
「昨日は会話がスムーズだったのに、今日は全く話が通じない…」
レビー小体型認知症では、認知機能のレベルが時間や日によって大きく変動します。調子が良くてハッキリしているかと思えば、急にぼーっとしていたり、言動がおかしくなったりすることがあります。この変動の激しさは、介護者にとっても戸惑いの原因となりがちです。
【対応のポイント】
- 無理に問い詰めない: 理解力がないように見えても、それは一時的なものかもしれません。「さっきは分かってくれたのに!」と責めるような態度は避けましょう。
- ゆとりのある声かけ: 本人の状態に合わせて、ゆっくりと、短い言葉で話しかけるように心がけましょう。
- 一日の状態を記録: バイタルサインを測るように、その日の認知機能の状態(「今日はぼーっとしていた」「今日は元気に話していた」など)を記録しておくと、変化のパターンを掴むヒントになります。
② リアルな幻視:本人にとっては「現実」
「あそこに知らない人が座っている」「天井から虫が落ちてくる」
レビー小体型認知症の幻視は、色彩豊かで、人物や動物、虫など、本人が「見慣れている」ものが現れることが多いのが特徴です。また、幻視と現実の区別がつきにくく、本人にとっては「本当にそこにあるもの」として体験されます。
【対応のポイント】
- 幻視を否定しない: 「そんなものはいないよ」と否定すると、本人は「なぜ信じてくれないんだ」と不安や怒りを感じます。まずは本人の見ている世界を否定せず、「そうですか、何か見えますか?」と受け止めましょう。
- 安心できる声かけ: 「もし怖いなら、私が一緒にいますから大丈夫ですよ」と安心感を与えましょう。
- 話題を変える: 幻視から注意をそらすために、「お茶を飲みませんか?」「お散歩に行きましょうか」と別の話題や行動を提案するのも有効です。
- 環境調整: 幻視を誘発するような、暗くて隅っこになる場所や、照明がチカチカする場所を避ける、夜間は間接照明を使うなど、環境を整えることも大切です。
③ パーキンソン症状:転倒リスクに注意
「歩くのが遅くなった」「手が震える」「体がこわばって動かしにくい」
レビー小体型認知症の多くは、パーキンソン病と同じような運動障害を伴います。特に、すくみ足(一歩目が踏み出せない)、小刻み歩行(小股でチョコチョコ歩く)が起こりやすく、転倒のリスクが高まります。
【対応のポイント】
- 転倒予防の徹底:
- 廊下の障害物をなくす
- 床に滑りやすいものを置かない
- 手すりを設置する
- 歩きやすい靴やスリッパを使用する
- 声かけと動作誘導:
- 「1、2の3で歩き出しましょう」など、リズムをつけて声かけをすると、すくみ足が緩和されることがあります。
- 立ち上がる時に「ゆっくりと立ち上がりましょう」と声をかけ、急な動作を避けるように促しましょう。
- 機能訓練の継続: 転倒予防と筋力維持のため、理学療法士と連携し、リハビリテーションを継続することが非常に重要です。
3. その他の重要な症状と対応
レム睡眠行動障害(RBD)
夢の内容に合わせて、大声を出したり、手足をバタつかせたり、ベッドから起き上がって動き回ったりする症状です。睡眠中に起こるため、ご本人や同室の方の怪我につながる可能性があります。
【対応のポイント】
- 安全確保: ベッド柵を設置する、ベッドの周囲にクッションを置くなど、怪我をしないための工夫が必要です。
- 覚醒を促さない: 叫んでいても無理に起こそうとせず、優しく声をかける、背中をさするなどして、落ち着くのを待ちましょう。
- 医師への報告: 症状が頻繁に見られる場合は、医師に報告し、投薬による治療を検討してもらう必要があります。
自律神経症状
立ちくらみ(起立性低血圧)、便秘、発汗異常、失禁などがよく見られます。
【対応のポイント】
- ゆっくりとした動作: ベッドから起き上がる際や、立ち上がる際は、ゆっくりと時間をかけてもらい、立ちくらみを防ぎましょう。
- こまめな水分補給: 脱水症状の予防のため、こまめな水分補給を促しましょう。
- 規則正しい生活: 便秘対策には、規則正しい排便習慣をつけたり、食物繊維の多い食事や、適度な運動を促しましょう。
4. 薬の影響に注意!
レビー小体型認知症の患者様は、抗精神病薬(特に定型抗精神病薬)に対して過敏な反応を示すことが多く、少量でも副作用(パーキンソン症状の悪化、意識障害、悪性症候群など)が強く現れることがあります。
【対応のポイント】
- 服薬状況の把握: 利用者様の服用している薬の種類を必ず把握しましょう。
- 異常の早期発見: 新しい薬が始まった後、ぼーっとする時間が長くなった、体の動きが悪くなった、発熱が見られるなど、いつもと違う様子が見られたら、すぐに看護師や医師に報告しましょう。
5. まとめ:レビー小体型認知症の介護は「寄り添い」がカギ
レビー小体型認知症の介護は、画一的なマニュアル通りにはいかない部分が多く、戸惑うことも多いかもしれません。しかし、ご本人の「見ている世界」を理解し、その時々の状態に合わせて柔軟に対応することが何よりも大切です。
最後に、3つのキーワードを心に留めておいてください。
- 「変動」: 調子がいい日と悪い日があることを理解し、その状態に合わせて対応する。
- 「共感」: 幻視を否定せず、ご本人の世界に寄り添い、安心感を与える。
- 「安全」: 転倒や怪我のリスクを常に意識し、環境を整える。
レビー小体型認知症のケアは、ご本人にとっても介護者にとっても、日々の発見と学びの連続です。この記事が、皆さんの日々の介護に少しでも役立ち、利用者様とのより良い関係を築く一助となれば幸いです。
利用者様の個性と尊厳を大切に、これからも共に頑張っていきましょう

